火曜日, 3月 30, 2010

思い焦がれて、死んでゆく。

週末にお花見強行した人は、
ほぼ罰ゲームだったんでは。

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別にノルマにしているわけではないけど、
映画と落語は、気付いたら最低月2回くらいは観てる。

音楽もそうだけど、基本的に
「人が表現しているもの」から
何かを感じ取るのが好きなんだと思う。
メッセージを感じたときのあの感覚は、
何事にも変えがたいものがあるね。


で。
週末は落語。今年初、談春@新宿へ。

談春は立川談志の後半の弟子で、志の輔の弟弟子にあたります。
いま落語界で、チケットがなかなか取れない人を
5人あげろと言われたら、真っ先に名前が出るひとりです。

今回は初めから「たちきり」をやると
決まっていて、当日の番組を並べると・・・

・粗忽の使者
・愛宕山
 --仲入り--
・たちきり


たちきりは本当に笑いのない話なので、
前半二つで笑わせた感じ。
「愛宕山」は落語を知らない人も知っているわりと有名な噺。

私、太鼓持ちの出る話が大好きなんだー。
西洋の「ピエロ」に通じるものがある。
“顔で笑って、心で泣いて”ですね。

しかし今回の目玉はやっぱり「たちきり」!


 とある置屋の娘・小糸にほれ込んだ若旦那。
 小糸も本気で若旦那を愛すのですが、道楽者の
 息子を憂いた若旦那の父と番頭が、若旦那を
 100日間蔵に閉じ込めてしまいます。
 
 そうとは知らずに、連絡の取れなくなった若旦那に恋焦がれ、
 毎日文を送る小糸。返事の来ない文を送り続ける小糸は、
 日に日にやつれ・・・

 そんな事も知らない若旦那は、蔵の中で苦悩の日々を
 送ります。ようやく年が明けて外に出る事ができた若旦那は、
 あわてて置屋に駆け込みます。
 そこで若旦那を迎えたのは、仏壇に置かれた
 真新しい小糸の位牌だった・・・・



もーね。
とにかく切ない噺なんですよ!

私はむかし、さん喬の「たちきり」で大泣きしたことがあるんだけど、
そん時も会場中からシクシクとすすり泣きが響いてね。

この噺の何が悲しいって、序盤の蔵に閉じ込められるシーンとか、
小糸が恋焦がれる相手に文を送るシーンは
あくまでも回想で、若旦那や小糸自身が出てくるわけではない。

1時間以上の高座のほとんどは、
蔵から出た若旦那が小糸の死を知らされた後、
小糸が衰弱して死んでゆくまでを若旦那に語る
置屋の女将(=小糸の母親)の語りで進行してゆきます。


・・・恋愛話を、主人公である当の男女に
直接演じさせるのは正直簡単なわけですよ。

でもそれだと、「世界の中心で・・・」的な、
ベッタベタの「お涙頂戴もの」でしかない。

大体、他人の惚れた腫れたなんて
他人が聞いてもさして面白いもんじゃないし、
悲しいエピソードともなればよっぽど話に深みがないと
鼻白んだものになりがち。

でも「たちきり」では、娘を亡くした親の視点から
話が進んでいくわけです。そこがある意味壮絶。

とはいえ、酸いも甘いも知り尽くした置屋の女将である母親は、
取り乱すでもなく、恨むでもなく、“娘の死の原因”でもある若旦那に、
小糸の生前の様子を淡々と伝えていきます。

女将の有名な台詞で、

 「人間はね、生きていると、良い事も悪い事も忘れてゆくんですよ。
  小糸は・・・・・忘れたくなかったんでしょうねえ。若旦那を。
  このまま若旦那に会えなくても、生きていればいつかはあの子も
  傷が癒え、別の誰かと一緒になったかもしれません。
  きっと それが許せなかったんでしょうねえ・・・・。あの子は」


っていうのがあって、今回も私はこの場面で もー涙、涙。
談春演じる女将はわりと淡々とした女性で、
それが逆に、小糸が衰弱していく様子をより物悲しくさせるんだよね。

この話には、若旦那を蔵に閉じ込めた番頭も、
実は若い頃芸者と本気の恋に落ちて、
結局結ばれる事がなかった・・・という裏エピソードがあって、
通常ここはあまりジックリ語られる事はないんだけど、
談春のたちきりでは、わりとこのシーンに時間を割いていて、
「番頭の人柄(=決して若旦那を恨んで閉じ込めたわけではない)」を
しっかり描いていました。


それぞれが精一杯生きていたって、
ほんの少しづつ狂った歯車が、ある時大きな悲劇を生んでしまう・・・。


「生きる」というのは、かくも哀しい事なのか。


でも、「最愛の人を思い焦がれて死んでいった」小糸、
仏前で「女房と呼ばれるものは、今後一切持たない」と
若旦那に誓わせた小糸に対し、美しさや羨ましさではなく、

やっぱり死んだら負けだよ・・・

と、思ってしまう私は、
ヨロヨロとこの空虚な現代社会で
これからも生き続けなくちゃならないわけです。。

ハア~。

そりゃ、虚しさで落語の後にボトルも空けるわ
(言い訳 笑)。

4 件のコメント:

旧ヤハギ さんのコメント...

ふーむ。
いつもながら 
わかりやすいです、ヨヨさんの説明。

落語ってホントすごいね。
これ 一人で はなしてるんだもんね。

立丸 さんのコメント...

取れなかった会です。「たちきり」聴きたかった噺ですがレポで少しわかりました。

以前、聴いた時、談春師匠が「救いようのない噺」と言っていたのを覚えています。

ヨヨ さんのコメント...

旧ヤハギさん>
確かに、落語のすごさはやっぱり
「ひとりで全部やる」事に尽きるかも。

立丸さん>
らら!ごぶさたです。

> 「救いようのない噺」

確かに、人情噺でももうちょっとホノボノできるものもありますもんね。

みえきち さんのコメント...

私、ちゃんと落語見たことないんだけど
泣ける落語っていうジャンル?があるんですね。。。

いつも、笑うものかと思っていたので
びっくり!知らなかった!

しかし、人を思って死んじゃうってすごいなぁ。。。
そこまでの情念を、第三者からの視点で、それも、一人が演じる落語家の作る世界ってすごいんだらおうな。。。

いつか、機会があったらご一緒したいです!